β酸化してるのにケトン体産生できない人
β酸化してるのにケトン体産生できない人
どんなにケトジェニックな状態に持って行こうとしても、どんなに絶食状態に持って行こうとしても、「脂肪酸やケトン体が効率の良いエネルギーになるのは、ミトコンドリアが正常に機能している人またはミトコンドリアの機能が低下していない人だけ」です。
つまり、ミトコンドリアの質を高めないことには、ファスティングをやろうと、ケトジェニックな状態に持って行こうと、β酸化やケトン体モードにはなりづらいのです。私たちが思っている以上に、現代人はミトコンドリア能のばらつきが大きく、ミトコンドリア機能が低下している人が結構多いのではないのか、ということです。そういう人が無理矢理β酸化しようとしても体調を崩すこともありえます。
先日とある臨床の研究会(ミトコンドリア関係)でも話が出たのですが、想像以上に現代人はミトコンドリア機能不全の人が多いのではないかということです。特に、電子伝達系の発現レベルが低下していることが指摘されていました。
仮にミトコンドリア機能が正常であっても、ケトン体産生の第一歩であるHMGCS2という酵素が活性化されていないければケトン体は合成されません。この酵素が活性化するにはミトコンドリア酵素SIRT3の活性が必要です(詳しくは以前の記事を参照してください)。HMGCS2の活性には、他にもグルカゴンの分泌状態、PPARαの発現、インスリンが亢進していないこと、スクシニル化が起きていないこと、NAD+/NADH比の上昇などに依存します。
ところで、β酸化しているのにケトン体が産生しない人のカラダでは何が起こっているのでしょう。
結論から言うと、糖新生か脂質合成かTCA回路かの道に進んでしまうことがわかっています(Cotter DG et al,2014)。
通常、遊離脂肪酸は細胞質でアシルCoAとなり、その後カルニチン・シャトルに乗ってミトコンドリア内に運ばれます(カルニチン不足だとそもそもβ酸化さえ始まりませんのでご注意)。ミトコンドリアのマトリックスに運ばれたこの脂肪酸アシルCoAはβ酸化によりアセチルCoAとなります。ここでアセチルCoAが過剰になれば自動的にケトン体が産生するとよく言われていますが、先述のようにHMGCS2酵素のスイッチがONにならなければケトン体は産生されません。
そうなると、アセチルCoAは肝外組織に移行しませんので、肝ミトコンドリア内で代謝を受けることになります。まずアセチルCoAはクエン酸シンターゼの触媒を受け、クエン酸塩とCoA-SHに代謝されます。CoA-SHはTCA回路において使用され、クエン酸塩はミトコンドリアを出て、クエン酸リアーゼによってふたたびアセチルCoAに変換され、脂質に合成されます。さらに、ピルビン酸→オキサロ酢酸経路による糖新生も増加します。
この状況で、高脂肪負荷が加わりますと、β酸化されたアセチルCoAが過剰となり、CoA-SHを隔離してしまいますので、TCA回路が阻害されます。そうすると肝障害や炎症を引き起こしてしまうのです。
ファスティングやケトジェニック状態による脂質代謝モードにしていけばたいてい多くの人がうまくはいくものですが、中にはうまくいかずに、むしろ体調を崩ししてしまうことがある場合、こういう理由も挙げられると言えます。